左右性の動態と分子機構

水生動物の左右性の動態と分子機構
 

アフリカの古代湖として有名なタンガニイカ湖に生息する鱗食魚では、各個体の体躯が右側か左側に反り、右側に沿った個体は被食者の左体側を襲って鱗をとり、左側が沿った個体は被食者の右体側を襲うという現象が見られる。この軸の反りは遺伝形質であることが分かっており、右利き、左利きの個体群内での比率は0.3から0.7の範囲を5年周期で振動している。これは鱗食魚と被食者が襲撃と警戒方向に関して、得意な側を持つことから生じる、頻度依存淘汰による種内多型の維持機構として、世界的な注目を集めている。

 近年の研究から、この左右性という多型は、全ての魚類が共有する体軸に関する左右の非対称性であることが見いだされた。さらに、頭足類や甲殻類などの水生の無脊椎動物も魚類とほぼ同質の遺伝的左右性を持つことが示唆された。そこで我々は、この形質の(1)生態における役割と共に、(2)どのような遺伝基盤を基に形質が形作られ、また、(3)水生界においてどれほどの広がりを持つ現象であるのかを解明すること、を目的に研究を進めている。
 

1.野外調査
 

現在はタンガニイカ湖、琵琶湖とともに、フィリピンなど各地で野外調査を行っている。タンガニイカ湖においては、過去12年以上にわたり、多くの魚種を対象に調査が続けられ、0.5を機軸とした振動が確認されている( Hori, 1993)。琵琶湖においては、特に食物連鎖の相互作用を考慮に入れた、魚食者と被食者の比率の周期性を、ハス(捕食者)とアユ(被食者)を用いて調査している。左右性は個体群の捕食関係を主な振動要因として維持されている為、それらが実際捕食者、被食者の左右性比率とどのように関わっているのかを調査している。フィリピンではイカを対象に調査を続け、この左右性の現象が、水界一般に広がりを持つ、universalな現象ではないかということを検証していく。

2. 左右性に関わる遺伝子の探索
 

左右性に関わる遺伝子を、モデル生物としてzebra danioを用いて、positional cloning 法による同定を試みている。左右性は優性ホモ致死であるメンデル遺伝によっていると考えられるため、その多型の維持機構の仕組み、body planとの関わりなど、生態のみにとどまらず、分子発生ともかかわりをもつ複合的な問題である。今後さらに、この問題に分子発生という別の視点から問題に切り込むために、他分野の研究室の協力を得ながら、解析を進めている。